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Basic information
ルカ福音書と使徒言行録の作者が同一であるとする事は、両書の緒言並びに両書外の証言から、古来ほとんど疑われることはなかった。近代文献学により両文書の文体における異質性が留目されたにもかかわらず、作者/編集者ルカが多様な文体を駆使する能力を有していたとする仮説をもって、この見解が疑われる事は、A.C. Clark並びにW.Knoxを除いてほとんどなかった。先行する論文 “Breaking the Alibi …” では、N.Turnerの文体統計にほぼ従って、「同一性」を仮設として受け入れて論じたが、本論文では、一部の記述の訂正も兼ね、Turnerの統計的手法を更新する事を通じて、福音書になく使徒言行録に特異な、τε solitariumを作者/編集者個人の発展のうちに位置付けることができるかを問う。ヘブライ語をギリシャ語に翻訳する歴史の過程で生じた、翻訳ギリシャ語文体の変遷を解明することによって、その多世代に亘るユダヤ人著作家による進化に匹敵する進化が、後続する世代の一個人、即ちルカ福音書と使徒言行録両書の作者と想定される一個人の内部にも、起こり得るかその可能性を問う。 |