従来の言語教育においては、学習者が現実社会の文脈から切り離された知識や技能を教師から与えられ、それを習得することを学習と捉える学習観が中心的であった。その学習観を大きく揺さぶる契機となったのが社会文化的アプローチの登場である。社会文化的アプローチにおいては、社会においてその場に参加する人々やそこにあるものと関わり合い、その関わり方を常に作り替えていくことを学習であると考える。この学習の在り方の捉え直しは、言語教育の分野においても大きな影響を与え、広がりを見せている。現在、外国語教育において社会参加を目指した〈学習者が社会とつながる〉実践が模索されている。しかしながら社会という言葉は抽象的な、捉えがたい概念でもあり、その捉え方は実践者によって異なるのが実情である。教室を社会そのものだと捉える考え方、学習者が学ぶ言語が使われている周辺を社会だと捉える考え方、より広い、地球市民的な視野で社会を捉える考え方もあろう。社会文化的アプローチが新たな言語教育のパラダイムとして影響を与え始めて以降、社会はこれまでにも増して重要な概念となってきている。本稿ではこれまで言語教育で位置付けられてきた「社会」と教育実践のつながりを振り返り、日韓交流学習において「社会」と教育実践をいかに結びつけることが可能かについて問題提起をした。
共同発表者:澤邉裕子