20世紀から21世紀にかけ、多文化共生というスローガンのもと、社会のすべての人々が対等で、よりよく生きるインクールシブな社会の実現が模索されてきた。しかし、在日コリンアンに対するヘイトスピーチなど、いまだ日本社会には差別や偏見の問題が山積しており、多様性や寛容性が尊重される社会の実現には至っていない。
本発表では、以下の【問い】をたて、インクルーシブな社会を実現するためのアプローチとして、ダイバーシティ教育と言語教育の融合を目指したヒューマンライブラリー(以下、HL) の実践の可能性について考察した。
【問い】言語教育にダイバーシティ教育の視点を加えたHLは、どのような実践をすることでマジョリティとマイノリティ の関係が変容するか。
この【問い】を明らかにするため、①従来、主にマイノリティによって語られてきたHLを概観し、その課題を炙り出すとともに、②ダイバーシティ教育の意義と方法という観点からマジョリティ性に関する先行研究を検討した。その結果、HLでマイノリティの語りを中心にすることは、偏見低減という「読者」のマイノリティに対する意識を変えるだけで、「読者」自身の社会的立場に対する気づきを促すことは難しいと明らかになった。一方、マジョリティ側が「本」となって特権を自覚したエピソードを語ることにより、マジョリティである「読者」自身が、社会的優位に立ち、マイノリティに対する抑圧に加担していることを認識できる可能性が見えてきた。「マジョリティの問題はマジョリティが解決する」というマジョリティ側の意識改革と協働を促す実践として、HLを取り上げ、その可能性について論じた点に本発表の独自性がある。
共同発表者:福村真紀子・吉田孝子・松本美香子・本間祥子・Siyu Li