【目的】皮膚の創傷治癒過程では、ケラチノサイトの遊走、増殖及び分化がおきる。創傷治癒の機序を明らかにすることを目的とし、今回は、HaCatケラチノサイトを用いた実験創傷治癒系において、紫根成分shikoninにより発現調節を受ける遺伝子を解析した。
【方法】①創傷治癒作用の観察:6 well plateでコンフルエントまで培養したHaCat細胞を用い、薬物存在下・非存在下で細胞剥離面(創傷)を作成し、shikonin(40nM)を創傷後5分~25分の間添加し、15時間(創傷後16時間)培養した(対照はDMSO)。創傷面積の測定により、創傷治癒効果を観察した。②messenger RNA(mRNA)発現量の網羅的解析、リアルタイムPCR法による定量及びmRNAの転写後の発現調節に関わるmicro RNA(miR)の解析:上記と同様の培養及びシコニンの曝露条件であるが、創傷はプラスチック製の櫛を用いて作成した。創傷後3時間及び16時間に細胞より全RNAを抽出し、解析に用いた。
【結果・考察】Shikoninは創傷治癒を促進した。創傷後3時間にshikoninにより発現が2倍以上増加及び半分以下の低下が観察されたのは、それぞれ409及び 1,261遺伝子であった。この1,261遺伝子のうち約1/4の遺伝子の発現は16時間後に2倍以上に増加した。創傷後3及び16時間ともに発現が2倍以上増加及び半分以下の低下が観察されたのは、それぞれ5及び 40遺伝子であった。このうち創傷治癒に関係する5遺伝子の発現変動へのshikoninの関与を、リアルタイムPCR法で確認した。mRNAの転写後の発現調節に関わるmiRについては、shikoninにより創傷後3時間に1種が有意に増加し12種が減少したが、創傷後16時間には有意な変動は認められなかった。
以上より、shikoninの実験創傷治癒の促進作用には、創傷治癒に関わる遺伝子のmRNA発現のshikoninによる制御が関与することが示唆された。
29P1-am145