【目的】マクロライド抗生物質のクラリスロマイシン(CAM)は、抗炎症作用も有し、びまん性汎細気管支炎への少量長期投与療法が確立された。しかしCAMの宿主細胞内での標的分子については、不明な点が多く残されている。一方、CAMは50Sリボソームに結合することから、宿主細胞では、リボソームと同様酸タンパク質複合体であるスプライシング装置と結合する可能性が考えられる。そこで今回はCAMのスプライシングに与える影響を解析した。
【方法】マクロライドに対して高い感受性を示すBJAB細胞に対して、CAMまたは溶剤を含む培地中で48時間培養した。その細胞質をショ糖密度勾配超遠心法により分離し、mRNAあたり3個以上のリボソームが結合したmRNAを抽出した。転写物のアイソフォームのほか、non-coding RNA等の解析も可能な次世代型超高密度マイクロアレイを用いて網羅的解析、さらに得られたデータについてMicroarray Data Analysis Toolによるパスウエイ解析、またTranscriptome Analysis Console Softwareによるエクソン選択性解析を行った。
【結果】CAM添加によって15種類のパスウェイに変化が見られ、Photodynamic therapy-induced unfolded protein response等が含まれていた。炎症関連遺伝子ではTNF遺伝子では187bp exonの発現量がおよそ6倍に増加し、422bp exonは2分の1に減少した。スプライシングに関わるSRSF1遺伝子では、146bp exonが5分の1、54bpが4分の1、27bpが17倍、187+119bpが6分の1へ変化し、同hnRNPD遺伝子では、247bp exonが9分の1、48bpが6分の1、692bpが4分の1、107bpが2分の1、1214bpが2分の1、30+107 bpは3分の1と変化した。
【考察】CAMによりBJAB細胞中のパスウェイに変化を及んだことならびに、特にTNF遺伝子等の炎症に関わる遺伝子およびSRSF1やhnRNPDのスプライシングに関わる遺伝子のエクソン選択性に変化を生じさせることが、CAMの抗炎症作用発現につながっている可能性が考えられる。