古今集の古注釈や秘伝のうち為顕流の書とされるものに、赤人を上総国山辺郡(現在の東金市を含む一帯)の出身とする説が記されており、内容から二つに大別できる。一つは、「古今和歌集序聞書」とその諸本ので、赤人を大和国山辺郡ではなく、上総国山辺郡の出身とする。もう一つは、秘伝書に載る自性論で、柿本人麻呂が大臣の娘を犯した罪によって上総国山辺郡に配流されたが、『万葉集』編者任命に際して山辺赤人と改名したとされている。これらの説を精査すると、赤人上総国出身説の生成時期は弘安期かそれを大きく遡らない、また、自性論は後発と思われる。一方、赤人塚のある東金市周辺には、北条長時や久時による築城や寺院建立の伝が残されている。併せると、弘安期に関東に在住した為顕、歌人でもあった長時・久時の周辺から、赤人上総国山辺郡出身説が生じた可能性が考えられる。