周知のとおり、中世は戦乱の世であったが、同時に多くの天変地異が発生した時代でもある。最もよく知られているのは、『方丈記』に描かれた、いわゆる五大災厄(安元の大火、治承の辻風、福原遷都、養和の飢饉、元暦の地震)である。これらについては、漢文日記などの同時代史料のほか、史論『愚管抄』や軍記『平家物語』にも取り上げられており、当時の人々の受け止め方がうかがえる。たとえば元暦の地震について、『方丈記』では、その被害と人々の悲嘆のさまを描写する一方で、その時人々の心に生じた変化も月日が経てば薄らいでしまったと述べる。また、『愚管抄』では、これを平家の怨霊である龍の仕業と解釈し、世の乱れと関連付けている。平成二十三年の東日本大震災と続く余震、大型台風などの自然災害によって生じた現代人の精神的な変化とも関連付けて講演を行った。