近代女性文学において少女時代を外地、旧植民地で過ごした女性作家林京子は、日中戦争中の上海で十四年間を過ごした。一九四五年三月長崎に引き上げ、学徒動員の工場で被爆した。林京子は終戦三〇年後、被爆体験を綴った小説『祭りの場』を発表し、この三〇年間に亘る沈黙の意味を考える。
林京子は、「八月九日」に関った死に向き合う日々の複雑な体験を内面化し、その沈黙を続けていたからこそ、占領地と被爆国、加害者と被害者、上海と長崎という両義性の矛盾は、長い沈黙後の彼女の自己語りの衝動を大きく孕んでいたといえる。
上記の視点から林京子の作品を分析し、近代女性文学における<沈黙>を追究する。