(論集所収論文)プラトンの最後の作品『法律』篇も対話であり、プラトンの最終的な教説を示すと解釈するような単層的な解釈を直ちに受け容れる作品ではない。「酒宴の教育的効果」という主題でひとまず区切られる、『法律』篇の1巻、2巻における対話は、作者プラトンの影武者とされるアテネの客人一人による一方的な講演ではなく、アテネの客人、クレタの人クレイニアス、スパルタの人メギロス、この三者相互の発言が入り組んだ複層的な筋をもつ対話である。ポリスの法を、神話的な起源に拠るのではなく、超越者、即ち神の本性により根拠付ける事を潜在的な関心事としながらも、先ず、対話の推移は、クレイニアスが、メギルロスを陣営に加え、論陣を張った道徳原理が、即ち「万人の万人に対する戦争」とみる世界において、その戦争に勝利する事のみが善の根拠であるとするスパルタ的原理が、アテネの客人によって批判解体されていく過程として現れる。そして、この解体の論拠は、対話を主導するアテネの客人の法体系によるものではなく、正にクレイニアス並びにメギロスの対話内での発言のうちにあるものである。このことをテキストの解釈として提示する。
“The Origin of the Lengthy Digression in Plato’s Laws, Books I and II”pp. 48-53