M.Litt.論文の方法論的前提に含まれていた含意を明確にした論。「登場人物ソクラテスはプラトンの代弁者」という旧来の暗黙の単層的了解を、厳密に支えようとすれば、複層的な対話構造の分析を通して、「諸対話篇における登場人物ソクラテスの同一性」、「ソクラテスに帰せられる信念の導出可能性」を示さなければならない事を提示する。また、対話篇それ自体は、何かに還元されるべきものである前に、劇という細部に至るまで文学的作為に貫かれた作品であるから、対話に関わる当事者の、相異なる信念体系が、相互の言葉の交換を通じて、開示、展開、変容していく様相が、先ず分析されなければならない事を論ずる。