シラバス情報

授業科目名
倫理学概論
学年
1年
単位数
2.00単位
実務経験の有無
開講クォーター
セメスタ指定なし
担当教員
瀧 章次、瀧 章次
授業形態
授業で主に使用する言語
日本語
授業方法区分
開講キャンパス
オンライン(オンデマンド)
授業の到達目標及びテーマ
「倫理学」とは、名目上は「哲学」(philosophy)という学問の一部門とみなす傾向は依然としてあるけれども、他方、世界史的に普遍的に観察される「倫理学」(西欧のethics並びに中国、古代インド、イスラーム、日本の伝統的学問)を考えると、「倫理学」とは、人間の諸問題の根本を考える探究そのものであって、およそ学問においてその最終的な目標として目指されてきたところに関わる探究である。いわば、学問の学問として、認識と実践との関係ならびにそれらの最終的な統一に関わる学問と言うべきものである。本授業も「倫理学」をこの本来の考え方にしたがう見地に立って、この学問の核心を、ともに探究、攻究する学びである。この本来的な意味での倫理学について、その現代的課題と21世紀の現在にいたるこの学問の遺産との二つを、専門的術語をできるかぎりかみくだき、ともに思考、探究することを目標とする。学問が多様化、専門化、断片化し、さらには理念においても実践者そのものにおいても空洞化する現代的状況にあって、なお人文社会科学、自然科学はじめ諸学諸分野の本質的探究の基盤として、世界史的、人類的な見地から、人間の本質を問い、それぞれ今後の学びの基盤を形成する。

授業の概要
① 科目名: 倫理学 / 倫理学概論(英語名: Ethics)
② 授業形式: オンデマンド 講義 (視聴ファイルリンク先を送付。毎回、出席確認、内容理解確認の小論課題を課す。提出期限の目安は1週間。講義の基盤となる原典資料は予め日本語訳のついたものをファイルとしてリンク先を送付する。講義においては、倫理学を学んできたことを前提せず、専門用語はできる限りわかりやすくかみくだいて講義する。)
③ 内容:倫理学の現代的課題を理解し自らが倫理学の人類的遺産を活かして日々社会的倫理的実践に生きる。具体的には、「善」や「正義」ということがらは、個人や文化によって異なるとか、数学や論理学のような明確な答えがないとか、そのような理由で、道徳的指令集としての「倫理学」が否定されてきている状況を理解した上で、自らが日々、倫理的、政治的、宗教的に中立的であり得ているのか再吟味する。その上で、21世紀におけるみずからの地域社会、市民社会、国家、国際社会における顕在的、潜在的な現実的コミットを、哲学、倫理学の歴史的な英知を基に、自分自身で再構築して、日々自覚的に実践的世界を生きることを追究する。
④ 授業回数: 13回
⑤ 出席確認方法: 大学ポータルに提出される毎回の小論課題の内容と質
⑥ 履修者への連絡及び教員への連絡方法: 大学ポータルを通じて行う
⑦ 学生等と教員、或いは学生同士の意見交換の方法: 大学ポータルの掲示板、QA
⑧ 設問解答・添削指導・質疑応答等による十分な指導: 毎回、受講者全員の提出物については、大学ポータルで、日本語と内容との両面について講評を返す。

授業計画
1回
倫理学の現代的課題−日本語「倫理学」という言葉の語源、起源−西欧における倫理学の学問的起源と位置づけ
到達目標: 倫理学のその言語的由来と現代における学問的概要を理解する。
事前学習
事前学習(2時間):推薦図書のうち1冊は手に取って読むことが望ましい。また授業期間を通して2−3冊は自分で読み通すことも理解の助けとなる。既存の自分自身が所属している集団におけるエチケットや規範を身に着けることや非反省的に従うことと倫理学を学ぶこととはどのように異なるか自分自身で考えておくこと。
事後学習
事後学習(2時間):① 講義中のノート、メモを基に、後で読んでわかるように講義の展開を改めてノートにまとめる(PC上の文書作成でもよい)。② ノート作成の過程で、わからなかったこと、質問事項を、余白などに分かるように書き留める(PC上の文書作成でもよい)。 ③ 次回の講義資料該当箇所を熟読し、講義中に注意して聞き留めるべきことをマークしておく。必要があればノートに学習すべき事項としてまとめておく(実際に教員に必要があれば質問をUniversal PassportやJIUメールによりする)。

2回
第2回:倫理学の現代的課題−なぜ私たちは倫理的判断を誰かほかの人に任せておくことをしてはならないのか—市場の失敗、行政の失敗ほか、司法、科学、技術、メディア、学者、市民の失敗
到達目標:現代社会における、市場、行政、司法、科学、技術、メディア、学者、市民の「失敗」が何をひとりひとりの個人の行動の問題として突き付けているかを考える。
事前学習
事前学習(2時間):現代社会における、市場、行政、司法、科学、技術、メディア、学者、市民の「失敗」の諸事例を具体的に調べて、何が問題か気づいたことを書き留めてまとめておく。
事後学習
事後学習(2時間):第1回事後学習記載事項①②③を行う。社会的なシステム化されたアクターの失敗が我々の生き方において投げかけている問いにどのように答えればよいか、問題の社会構造的な意味について理解を深め、考えたことを書き留めてまとめておく。

3回
倫理学の現代的課題−わたしたちは日ごろ、ありとあらゆる場面で、思いや行動において、いつも、すでに、集団的価値判断に関わっている—わたしたちの日常の言語使用に顕在的、潜在的に現れる集団的意思による価値形成の諸事例
到達目標:ありとあらゆる判断や行動にはどのような判断基準や文化的社会的な集団的価値判断が潜在しているかについて、問題の構造について理解を深める。
事前学習
事前学習(2時間): さまざまな当たり前と思っている日々の日常行動を、表現してみる。そこに潜在している、判断基準や状況認識について、言語的な判断として改めて書き表してみること。またその次にそれぞれの判断が事実性ばかりでなく、事実性を付与することにおいて集団的な価値基準に関わっていないか考えその結果を書き留めておくこと。
事後学習
事後学習(2時間):第1回事後学習記載事項①②③を行う。行動や考え方のすべてにおいてその枠組みから価値判断に関与しているということがもしあるならば、集団的な価値形成とはどのような社会構造を持っていると言えるか、講義を通して考えることができたことを、論述を通して明らかにしておくこと。

4回
倫理学の現代的課題−行為論—わたしたちは、日々、自分自身や他人にのふるまい、おこないについて考えたり言葉で表現しているけれども、そうしたふるまいやおこないについての理解は自明なことなのか
到達目標:行為や行為の積み重ね・繰り返しとしての習慣や人生において、自らの社会に求めている価値や生き方が表現されるときに、その行為や行為の積み重ね・繰り返しとはどのような構造をもっているか、物体の運動や地理的空間的移動などとの比較対象によって、問題について考えを深める。
事前学習
事前学習(2時間):日常の何気ない日々の当たり前の行いや振る舞いというものがどういう構造を持っているかについて考え、論述を以て分析しておくこと。また人生の岐路における選択というものがどのようになされているものかについても反省して、分析内容を論述によって表現すること。
事後学習
事後学習(2時間):第1回事後学習記載事項①②③を行う。人間の行為というものが物体の運動とどのように異なっているのかその構造について自らの理解を論述によってまとめておくこと。

5回
科学主義による倫理学批判の妥当性を考える。16世紀から17世紀にかけて成立した自然科学の認識の性格を理解する。その応用としての技術や技術を前提とする社会政策について、その有効性について考える。

到達目標:「よい」、「(倫理的・道徳的に)正しい」という判断と科学的な事実記述や科学的な法則記述との違いについて考えを深める。
事前学習
事前学習(2時間):科学的な現象世界の記述の特質について考えるとともに、そのような判断に有効性の限界というものはないか考えて、まとめておく。
事後学習
事後学習(2時間):第1回事後学習記載事項①②③を行う。科学の本質と限界について考えを深めるとともに、科学をすべての事象における判断の基準とする科学主義がどのような問題をもたらすことになるか考えて、具体的な事例とともにまとめておく。

6回
西欧倫理学史—根拠への問い—古代ギリシア倫理思想におけるソクラテス、プラトン、アリストテレス
到達目標:古代ギリシアの倫理思想が現代を生きるわれわれにとって、実践と認識の統一という面から、なお有効であるか、考え、現実的な諸問題を考える際に活かす。
事前学習
事前学習(2時間):古代ギリシアの哲学史について概要を学んでおく。
事後学習
事後学習(2時間):第1回事後学習記載事項①②③を行う。ソクラテス、プラトン、アリストテレスにおいて展開された問いの構造が現代をいきるわれわれにどのような意義を有するか考え、論述においてまとめておく。

7回目
西欧倫理学史—共生、協働の根拠としての命のみなもととしての<存在・生成>−ユダヤ教、キリスト教における「主なる神」
到達目標:ユダヤ教、キリスト教における「主なる神」を支えとして生きる生き方から、人類全体に及ぶ全体性、総体性をもって生きる生き方の可能性を問う。
事前学習
事前学習(2時間):共生、協働を世界の全体にまで広げていくには人間性においてどのような共感能力が問われているかを考える。
事後学習
事後学習(2時間):第1回事後学習記載事項①②③を行う。「主なる神」において生きる生き方の普遍的な構造を考えて、この地上の人類社会の問題として、とらえ直す。

8回
西欧倫理学史—構造的暴力からの完全な自由としての絶対的平和の構想—カント哲学における理性の射程
到達目標:他者の立場に置き換えてものを考え、他者を手段としないことは、全人類的に貫徹することは可能か、可能とすればどのようにして可能なのかを考察する。
事前学習
事前学習(2時間):講義資料を通して何回とされるカント哲学について触れておくとともに、その最終的な社会、国家、国際社会の構想、特に、永久平和の構想を学ぶ。
事後学習
事後学習(2時間):第1回事後学習記載事項①②③を行う。カントの永久平和の構想を現実的に進めていく時に、理念に留まらない現実の支障としてどのようなことが考えられるかを反省する。

9回
西欧倫理学史—絶対者の自己展開としての世界史を人間はいかににとりもどすか—ヘーゲルの近代国家論をマルクスはいかに越えていったか
到達目標:「国民国家」、「国家主権」を乗り越えて真の国際共和体制を実現することは可能か、一国福祉社会を超えた世界福祉社会の可能性について考えを深める。
事前学習
事前学習(2時間):「民族主義」、「国家主義」並びに「国際主義」について過去の歴史を調べておく。
事後学習
事後学習(2時間):第1回事後学習記載事項①②③を行う。19世紀の問題から現代21世紀における将来の可能性を探り自らの考えをまとめておく。

10回
西欧倫理学史—理性と感情・感性との対立を生きる近代の陥穽—ベンサム、ミルの社会改良主義が目指していたもの
到達目標:「帰結主義」、「功利主義」について理解を深める。なかでも「快楽主義」とも呼ばれる古典的功利主義の現代的可能性を考える。
事前学習
事前学習(2時間):ベンサム、ミルが同時代において大学の外から社会の問題をどのように考えていたか調べてまとめておく。
事後学習
事後学習(2時間):第1回事後学習記載事項①②③を行う。ミルにおける「快楽主義」の可能性から、科学的な計算術を超えた、近代計算的理性に対抗する共感に基づく福祉社会の可能性を考察する。

11回
西欧倫理学史—われわれは権力からの自由において自発的に相互に社会的生存基盤を支える世界市民社会を築けるか—無-権力主義と正義論
到達目標:政府の統制、権力による拘束を一切ない社会において人間は真の共生を築けるか、その可能性と条件を考察する。
事前学習
事前学習(2時間):計算的理性に基づく公理種がもたらす倫理上、道徳上の諸問題について考察する。
事後学習
事後学習(2時間):第1回事後学習記載事項①②③を行う。

12回
西欧倫理学史—熟議は国境を超えて世界市民社会にまで拡大可能か—ハーバーマス、フィシュキン、ドライゼク、ベックが示しているもの
到達目標:分断なき社会を現代社会において構想して、人類の自壊傾向、自滅傾向をどのようにして緩和することができるか、世界福祉破壊の可能性を考察する。
事前学習
事前学習(2時間):討議倫理学、熟議民主主義について調べ、その限界と考えられてきたことについて調べてまとめておく。
事後学習
事後学習(2時間):第1回事後学習記載事項①②③を行う。討議倫理学、熟議民主主義の成功事例から、世界大にまで拡張していくためにどのような協働性をひとは獲得していけばよいか考察する。

13回
第13回:21世紀現代倫理学の課題と克服について、特に、正義論の無反省的な前提を批判することを通して展開されてきたフェミニズム、とりわけて、「ケアの倫理」の有効性を批判的に考察する。
到達目標:20世紀後半にいたるまで正義論はじめ無自覚的に前提してきたことがらがどのようなものであり、それをどのように批判的にとらえなおして行けばよいか、フェミニズム、特に、ケアの倫理による批判を考える。
事前学習
事前学習(2時間):新型コロナ感染症というパンデミックの中で人類は国境を超えて幸せを互いに築くことができたと言えるか、倫理学の講義において学んだことから考えておく。
事後学習
事後学習(2時間):第1回事後学習記載事項①②③を行う。自己自身の倫理学的な到達点について論述によりまとめておく。

14回
事前学習
事後学習

15回
事前学習
事後学習

16回
事前学習
事後学習

17回
事前学習
事後学習

18回
事前学習
事後学習

19回
事前学習
事後学習

20回
事前学習
事後学習

21回
事前学習
事後学習

22回
事前学習
事後学習

23回目
事前学習
事後学習

24回
事前学習
事後学習

25回
事前学習
事後学習

26回
事前学習
事後学習

試験及び成績評価
13回の授業の毎回に関する小論課題 (およそ1回、7,7% x 13 回)
課題(試験やレポート等)に対するフィードバック
毎回の小論課題については、授業に関する論述課題(レポート)で行う。

講義で使用するテキスト(書名・著者・出版社・ISBN・備考)
講義資料(PDF版)事前配布
参考文献・推薦図書
『永久平和のために』イマヌエル・カント著 宇都宮芳明訳 (岩波書店、1985、638円)
『人倫の形而上学』イマヌエル・カント 熊野純彦訳 (上巻 岩波書店 2024 1240円)(『カント全集』 第11巻、理想社、1969年、絶版)(『人倫の形而上学』は岩波書店全集にも収められています。)
『純粋理性批判』イマヌエル・カント著 原佑訳(平凡社、2005.2、1800円)
『実践理性批判』カント [著]、波多野精一, 宮本和吉訳 ; 篠田英雄 [改訳] (岩波書店、1979.12、450円)
『判断力批判』カント著、篠田英雄訳、上下 (岩波書店、1964.1、7、2140円)
Enzyklopaedie der philosophischen Wissenschaft 1830, Hegel, G.W.F., 3 vols., (Suhrkamp, 2010, 7000円)
Grundlinien der Philosophie des Rechts, Hegel, G.W.F. (Suhrkamp, 1970, 2,593) (翻訳:岩波文庫『法の哲学』、中央公論社、世界の名著『ヘーゲル』)
『国家』プラトン著、藤沢令夫訳、2冊 (岩波書店、1979.4、2800円)
『法律』プラトン著 ; 森進一, 池田美恵, 加来彰俊訳、2冊 (岩波書店、1993年、版切れ)
『政治学』アリストテレス [著]、牛田徳子訳 (京都大学学術出版会、2001年、4200円+税)
『ニコマコス倫理学』アリストテレス著、神崎繁訳 (岩波書店、2014年、6600円+税)
『ケアの倫理』 岡野八代 (岩波書店 2024 1364円)
研究室
オフィスアワー
科目ナンバリング
学位授与方針との関連
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