『南総里見八犬伝』は、伏姫の父である里見義実が、下総国での結城合戦に敗れ、一旦三浦半島へ敗走、その後海路、安房に渡るところから始まっている。その義実について、『八犬伝』は繰り返し、源頼朝に擬している。それは、やはり頼朝が石橋山の合戦に破れ、伊豆半島のつけね真鶴から安房へと渡ったこと、さらに房総に渡ることで勢力を盛り返し、平氏を破って鎌倉幕府を打ち立てるまでになったことに因んでいることは言うまでもない。両者の重層性が作品中どのような意味を持つのか。各場面と表現をみながら、その源泉や意味について考えた。