従来の初級教科書は文法積み上げ型で語彙と文法が教育の中心であった。来日して数ヶ月が経っても全く話せないという学習者を多く目にする。本教科書では、場面や人間関係(親と疎、上と下)を初級の段階から取り入れ、1つのコミュニケーションのやり取りがどのような場面で使え、どのような人間関係のもと、コミュニケーションが行われるのかを学習者に明示した語用論的要素を取り入れたコミュニケーション重視の初級教科書の開発を目指している。そのコミュニケーション重視の学びこそが社会性を養う基盤づくりと言える。また、地域の方々や日本人学生との交流を通じて学習意欲を向上させる活動を各課の総まとめとして取り入れ、学習者が社会とつながる基盤づくりの支援のための教材を開発する。
すでに上記の理論と概念は、それぞれ先行研究があり、それぞれの取り組みが行われているが、総括的な取り組みや上記の各理論や概念を包括的に捉えた教科書は管見の限り見当たらない。そこで、以下の5つの柱を中心とした実践研究を本研究の目的とする。1)地域や日本人学生など「社会とつながる」学習の実践報告と理論構築2)コミュニケーション重視の教材開発のための基礎研究 ―教科書分析―3)コミュニケーション重視の教材が学生にもたらす影響 ―場面と人間関係重視の教材がもたらす効果―4)ICTを活用した教材開発の実践報告5)会話文の試作の作成の経過報告