本書には三つの特長がある。第一に、近代において東アジア国際体系が西ヨーロッパ国際体系に包摂されたことを以て、華夷秩序が消滅したとみるべきではないと論じている。第二に、冷戦終焉の直後に流行していた、地域統合やグローバル化といった脱国家化に対する楽観論を排している。第三に、冷戦後の国際秩序が多極化するとの見通しに立って、日本は国家安全保障体制の抜本的再検討に着手すべきと説いている。本書発行後の国際政治の変容とそれについての研究成果を踏まえれば、20世紀東アジア国際政治史の叙述が乏しく、ヨーロッパ統合の行き詰まりや主権国家の再浮上についての明言を避けているなど、多少の物足りなさをおぼえる。けれども、良識的でバランスの取れた国際政治論であり、今日でも通用する内容を備えた教科書である。
123-134